ぽしゃ

いつか忘れた頃に読み返すための雑多な記録帳

マリネに思いを馳せながら

午前の仕事がちょっと長引いて昼休みが半分になってしまったので外へ出るか迷ったけれど、どうしてもパンが食べたくて近所のパン屋に行った。

そのパン屋は住宅街の中にある。個人経営のこじんまりとした店舗。

この前食べたサーモンフライサンド(フライの上にのっている玉ねぎやにんじんのマリネが美味しい)を狙って行ったらサーモンフライはあったけれど玉ねぎにんじんはなく、代わりタルタルソースと中濃ソースのタレになっていた。しかし贅沢は言うまいとサーモンフライサンドを買った。

そのほかにカレーパン(140円)、特大いちごパン(手のひらを二つ並べたくらいの大きさ、300円)を買った。

最近、よくハニーマスタード唐揚げバーガーも売っていて買おうかどうか迷って、サーモンフライを買ってしまうことが多い。徒歩圏内に揚げ物に強い店があるのは嬉しい。今日はビーフコロッケバーガーもあった。美味しそうだった。

 

サーモンフライサンドは言うまでもなく絶品だった。ソースはない方が好みだけど、たまには違う味を楽しむのもいい。カレーパンは安定の味。

いちごパンはいちごソースが練り込んであって表面にはまぶされているかたまりの砂糖をザリザリ噛むのが楽しかった。しかし思った通り大きくて、午後の仕事中ずっとつまんでいてもなくならず、仕事が終わってからようやく食べ終わった。

いちごと菓子パンの甘い感じが胸元に残っていて夕食を作る気にならない。米を水に浸したままこんな時間になってしまった。今夜は夕食なし。

 

 

幼い頃、近所に小さな手作りパン屋があった。手ごろな価格だったのでよく通っていた。小学校に上がる前の年頃にはトングでパンを挟むのがとても楽しかった。狭い店内は自分の他にも数人の客がいて窮屈なくらいだった。

小学生になってからしばらく経ってその店はいつのまにか潰れてしまった。少子化で人口も減っているからとか店主が高齢だからとかそんな理由だったと思う。何度も聞いたのにはっきり覚えてない。自分が何度も同じことを聞くので相手は呆れながら答えてくれた、それは覚えている。パン屋のあった場所を見る時、ずっと心のどこかで納得しきれない部分があった。それで毎回、なんでだろう、と思った。

パン屋の跡地には緑と赤と黄の、原色の主張が強い小さな箱みたいな建物が建った。習い事の行き来で通りかかるたび、これはなんなんだろうと思っていた記憶がある。たまに人が吸い込まれていくのを目にした。ある時、それは消費者金融のATMだと教えてもらった。斜め向かいには大きなパチンコ屋が建っていた。

 

今調べるとそのパチンコ屋も四年ほど前になくなって、別の場所に移転していた。Googleマップで閉業の文字と移転後の建物を眺めながらあのATMも新しい場所に移ったのだろうかと調べてみたけれど、そもそも元の場所にATMがあったという情報を見つけられなかった。

そもそも今は消費者金融のATMは廃止の方向にあるらしい。維持費がかかるとかなんとか。それなら片田舎のATMは真っ先に潰れてしまったと思う。

もしかしたらあれはATMではなく無人契約機だったかもしれないけどそれにしても今はスマホがあるので用無しになってるに違いない。

何度も通りかかっていたのだから一度くらい中に入ってみればよかったな、と思う。どんな内装だったのか、ATMだったのか無人契約機だったのか、もう何一つ確かめようがない。幼い頃はその箱の中に入ってみようなんて考えたこともなかった。消費者金融というものは大人が金を借りるための場所だと聞いても、なんでそんな場所が必要なのか、具体的な利用シーンが思い浮かばなかった。経験のない物事に対する想像力がなかった。だから不自然な原色の箱を遠巻きに眺めて、これは何なんだろうということと、なんでパン屋はなくなってしまったんだろうということばかり考えていた。

 

 

サーモンフライサンドを取り扱っている近所のパン屋では少し前まで腰の曲がった店主さんが会計をしてくれたが、いつの間にかその姿を見なくなり身内らしい方が店に出るようになった。店主さんはお元気ですか、と訊ねるほどの社交性はない。パンをエコバッグに入れる際に握力で潰さないようにいつも気を使う。パンは相変わらず美味しい。サーモンフライの上にかけるものを中濃ソースではなく玉ねぎとにんじんのマリネに戻してくれたら嬉しいけど、ソースが続投されるとしてもこれからも買い続けると思う。サーモンフライにマリネをのせるのは包丁を使う手間が増えるもんなあ、と思いながら。